アイシテル
お互い幼かったんだ。
外見も中身も。今ならそう思える。
まぁ、今思ってもどうしようもないけどな。
あの時をもう一度やり直せるのなら、今度こそはあいつを泣かせたりしない。
もう、会える事はないと思うが…。
ケビンマスクは日課となっているランニングの途中で足を止め、高架から下にある海を見つめた。
超人オリンピックのチャンピオンとなったケビンを待ち受けていたのはパレードや取材など、今までは拒否していた物事ばかり。
トレーニングをすれば、カメラが向けられ黄色い声が上がる。
思い描いていたものとは違う事に気付かされたようだと、ケビンは溜め息をつく。
今は隣にいないが、セコンドと一緒に走ったランニングコースを走る。
海を見つめていると苦い思い出がよみがえり、それを振り払うかのようにケビンは再び走りだす。
愛だの恋だのは陳腐な言葉だと思っていた。それこそ、口に出すのもおかしなくらい。
彼女もそれを求めてこなかったし、ケビン自身も彼女に言って欲しいとは思わなかった。
「バカバカしい。今頃思い出してどうしようってんだ」
こんなに彼女の事を思い出すのは、家出をした実家に戻ってからだ。
久ぶりに会った父と母は相変わらずだったが、以前よりも父を憎いという気持ちがなくなっている事を不思議に感じた。
『そんなに父親と比べられるのが嫌なら、父親を越えたら良いじゃない!』
面と向かって言われたのは初めてで、その言葉に言い返したのも、ケビンにとっては初めての経験だった。
今まで自分を縛り付けていた父親から逃れる為、悪行超人になった時に出会った人間。
それがだった。
ケビンとはお互いに惹かれ合ったのか、それとも同じような境遇でお互いに足りない物を補おうとしていたのか、今となってはわからない。
わからないが、たぶん後者だったのだとケビンは思う。
親からの期待と周囲からの見えないプレッシャーに押し潰されそうになっていた2人。当時はそんな事はない! と思っていたが、今考えると、確かにそうだった。
それはも一緒で、同じ境遇の者同士、一緒にいるのは楽だった。楽だったが、お互いに相手を思いやる気持ちが少なすぎた。
少しぶつかれば、お互い言いたい事を言って喧嘩別れをしてしまった。
「…バカだな…」
「…本当に」
「な!?」
聞き覚えのある声に驚いて振り返れば、そこには肩まである髪の毛を風に揺らめかせて立っている彼女の姿。
「お久し振り。父親を越えた気分はどう? チャンピオンさん」
「……」
以前の彼女はずっと髪の毛を後ろで一つにまとめていた。だから、彼女の髪の毛の長さを知らなかったが、今の彼女は髪を下ろしている。思っているよりも長さのある髪の毛をケビンは見つめた。
笑って言った後、は俯いて何も話さない。
名前を呼ぶだけで精一杯のケビンは、俯いたままの彼女の顔をもう一度見たいと思ったが、どうしたら彼女が顔をあげてくれるのかわからない。
「…本当はね…」
しばらく俯いていた彼女が小さな声で呟く。顔を上げるものの、ケビンを見る事はなく海を見つめて。
「もう。会わないでいようと思ってた」
「」
「ケビンにとっても私にとってもその方が良いと思ってたんだけど…チャンピオンになったケビンを見たら、もう一度会いたくなって」
来ちゃった。とケビンを見て笑う。
その表情は今までケビンがみた事のない笑顔で、ケビンは言葉を飲み込む。
「ちゃんと、本心を言ってから、離れようと思って」
そう、ケビンにとってもにとっても、ちゃんと本心を言えてなかった。意地の張り合いみたいだと気付いた時には隣にいない。
「私ね、ケビンが好きだったよ」
「そうか」
過去形で言っているに笑かける。過去で良い。こうして、彼女も自分も次へと進めるのだから。
「今はね、アイシテル」
「え?」
「ただ、それだけが言いたかったの」
そう言うと、はケビンより一歩後ろへ下がる。
「待てよ! お前、自分の言いたい事だけ言って、俺の本心は聞かなくていいのか?」
腕を掴むと、早口で話す。
その話し方が喧嘩口調なのにケビンは気付いていない。
気付く余裕すらなかった。
「ケビンは本心を話さないもの。だから、それが本心でしょ」
「俺は…」
言い直そうとして気付く。彼女の腕を掴んでいる自分に。
それがケビンの本心。そんなケビンの本心を知っているの表情は、今にも泣きだしそうだが笑っている。
「俺は、もうお前と離れたくない」
その言葉には先程の笑みとは違って、満面の笑みを浮かべて瞳を閉じた。
終
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うわ~。
なんだこの、中途半端…。
そしてこの気持ち悪い甘さ…。
気持ち悪くなりすぎたので、途中で挫折しました。
で、この短さ。
ごめんなさい。
全ての人に謝りたい気分です。
謝って許されるモノならいくらでも謝るよ(へタレ)
シリアスにしたかったのになぁ~。
どこでどう間違えたんだ?(文才のなさが原因です)