A love story of 大石



 ああ。危ないなぁ、何やっているんだ。
 いつもなら一緒になる事の無い家までの距離。
 オレは部活で遅くなって、彼女は…たぶん残業だ。確か、先日から仕事が忙しくなった。と嘆いていたから。
 よっぽど疲れているのか大きな鞄を2つ持って、フラフラと歩く。
 いきなり声をかけて驚かれてこけたりでもしたら困るから、声をかけようかどうしようか迷っていると、突然彼女の体が大きく傾いた。
「危ない!!」
 何かに躓いたのが見えたから、思いっきり走って彼女の体を受けとめた。
 彼女自身も自分で何とかこけないようにしたらしく、俺達は2人揃って地面に倒れこむといった事は無かった。
「大丈夫か!?」
「…秀一郎…?」
 何度かまばたきをして俺を見つめる目は、どうして俺がこの時間にいるかわかっていない様子。
「たいていこの時間に部活は終わるんだ」
「そうなんだ。遅くまでお疲れ」
 体を離して彼女は笑う。
 疲れているのは俺じゃなくて、あなたの方…。
「俺よりもそっちの方が疲れてそうだよ。残業?」
「せいかぁ〜い。あ、でもそのおかげで秀一郎に会えたもん」
 笑顔の彼女に、顔が赤くなっていくのが分かる。
 まいったな…。
 彼女が疲れているのをわかっているのに、残業に感謝している俺がいる。
「秀一郎」
「ん?」
「もうすぐ試合?」
「そう。日曜日」
「見に行ってもいい?」
 せっかくの休みの日ぐらいゆっくりしてもいいのに…。
 そう思いながらも、彼女がきてくれた方が気合いも入る。
 本当は来て欲しいけど…。
「疲れているだろ? 日曜日なんだからゆっくり…」
「私はテニスをしている秀一郎が見たいの」
 真剣な表情で言う彼女に思わず笑ってしまう。
「もう、秀一郎」
「君に来てもらえたら、嬉しいよ」
 ポンと軽く、肩を叩いてそう言うと、彼女の表情が笑顔になった。
「うん! 行くからね…ってちょっと秀一郎!?」
「鞄を2つも持っていたら手もつなげないだろ? ほら、そっちの鞄を貸して」
「…重いよ?」
「重いから俺が持つんだろ?」
 2つ持っている鞄の重い方を持つ。確かに重い。
 こんなのを持っていると、確かにフラフラになるよな。と思いながら、片方の手に彼女の鞄を持ち、肩のバッグをかけ直す。
 空いた方の手を彼女に差し出すと、そっと彼女の手が合わさる。
 つないだ手から伝わる温もりが嬉しい。
 最近の事を話しながらも、彼女を送り届けるまで手をつないで歩いた。





設定・・・高校生の大石と社会人の主人公。そして恋人。