涙音
ナオシがとある森を歩いていた時、そこに住む野生ポケモン達が戸惑っている感じがした。野生ポケモン達はナオシを見つけるなり、こっちへ来て欲しい、そんな態度で吟遊詩人を誘った。
ーーだから、本当に偶然だった。ナオシがの涙を目に留めてしまったのは。
「……さん……?」
「っ! ……ナオシ、さん……」
前髪に隠れて居ない瞳をナオシは見開いて呼んだ。
するとモンスターボールから出ていた自身の手持ちポケモン達が振り返る。ポケモン達の隙間から見えたもナオシの方へ向いて……双眸から雫が落ちる。
がナオシを呼ぶそれも、酷い涙声であった。
血相を変えてナオシは小走りでポケモン達に囲まれ、しゃがみ込んでいるに歩み寄った。当のは止まらない涙を必死に拭い、顔を隠そうとしている。
「……一体、何があったのですか? さん」
いつもよりも優しい声色と口調でナオシは尋ね、の傍らに両膝を折った。
芯も強く気丈なが此処まで涙をこぼすーー余程のことが合ったに違いない。
付き合いの長い手持ちポケモン達も、どうすれば良いのか解らない、という表情なのだから。
「ーーーーー」
ナオシの問いに対する返事は嗚咽。
答えようにも感情が先走り涙ばかりが溢れ出てしまい、あのが上手く言葉に出来なくなっている様だ。
抱えていた黄金色の小さな竪琴をナオシは足許に置いて、
「さん、一人で悲しまないでください」
空いた両腕をに伸ばし、ナオシは自身の胸元に引き寄せた。
「さん。貴女が感じた悲しみも、辛さも痛みも涙も喜びも全部……私は分かち合いたいと思っています」
静寂の中で響くのは、上手く喋れなくなって、ただしゃくり上げるの声。
ナオシは顔が見えぬへの愛切(あいせつ)を宿した瞳を閉じ、
「それは今、貴女を心配してボールから飛び出している、苦楽を共にする貴女のポケモン達も同じだと思うのです」
涙音を遮らぬ様、詩(うた)を乗せる。
「だからさん。涙音を隠さなくても大丈夫ですよ」
ナオシの言葉にポケモン達も賛同するかの様に鳴き声を上げた。
「私達はどんな貴女も受け止めます。貴女がいつも、そうしてくれる様に」
辛い現実こそ共に乗り越えましょう。
おわり