未来ヲ望ム為ノ方法 03話
悟飯がセルを倒した。
歴史は変わったが、悟空が亡くなるという歴史は変わらなかった。
新しい歴史をは見つめる。そこには共に生きたトランクスの姿はない。
「…ブルマが悲しむな」
「ちゃんと生き返る」
「ピッコロ…」
気付けばの背後にピッコロが立っていた。
彼にとっては、もう決して起こる事のない出来事だったが、にすれば確かにあった過去。
彼がを庇って亡くなったという現実。
この時代なら、生き返る事ができるのだという事実が、今のの現実。
「だから、そんな顔をするな」
「…うん」
「貴様はトランクスと戻って、貴様の時代の人造人間共を倒すんだろ」
頭に触れる手には目を閉じる。
髪の毛の色素は落ちたものの、あの時から想いの分だけ髪の毛は伸びた。その想いを彼は知らないけど、それでも良かった。
神殿へと向かう仲間たちを追っても空へと飛びたつ。
「」
「ん?」
18号を抱きかかえて飛ぶクリリンに声を掛けられて、はクリリンの方を見る。
一緒に修業した大事な仲間。
にとっては懐かしい彼も、この時代ではちゃんと生きている。
「ごめんな」
「なにが?」
人の感情に機敏なクリリンは自分の願う事が、相手を傷付ける事がわかっている。だから先に謝るという、言い方をするのだろう。
「俺…18号に生き返って欲しいんだ」
ドラゴンボールでトランクスを生き返らせることは、18号も生き返ること。それがどんなにも、生き返ったトランクスも悲しませる事だとわかっていて、クリリンは言う。
実際、遠い未来に戻った時、はトランクスと共に人造人間を倒すのだろう。その為に、ブルマの作ったタイムマシンに乗ってきたのだから。
「クリリン…」
白くなった髪の毛が風になびく。その髪の毛がどれだけ辛い過去を歩んできたのかわかる。それが分かるから、クリリンもそんな言い方をしたのだろう。
には何も言えなかった。
ただ、クリリンの想いは分かるような気がした。
生き返って欲しい。
もそう思った。それはもう、のいる未来では叶う事のない願いだけど、この時代では叶う。
トランクスは生き返り、カプセルコーポレーションで泊まってから未来へ帰ると言う。
「はどうするんだ? 亀仙人様もお前に会いたがっていたぞ」
「私も会いたいんだけど、こっちのブルマにカプセルコーポレーションにくるように言われてるから」
「そうか…じゃ、明日一緒に見送りに行くよ」
「うん!」
笑顔で微笑むに、以前のと変わらない事にクリリンはホッとした。
最初、未来からやってきたを見て、自分の知っている彼女とあまりにも違う事に驚いた。
良く見れば外見や髪の色は変わっていたが一緒に修行していた彼女だと思うのだが、気も違うし、未来から来たと言うにしては年齢が止まっている事に疑問を感じた。
それでもその白髪と切なげな表情が彼女に起きた出来事のすべてを語っていた。それだけ辛かった自分の知らない未来の。
クリリンが彼女の名前を呼べば、振り返り返事をする。その時の笑顔が自分の知っている彼女の笑顔で、初めて彼女が未来から来ただと確認したクリリンだった。
そして、あの明るかったがここまで変わった未来を思うとゾッとし、そんな未来を変えたいと思った。
この時代のはもういない。
ドラゴンボールで生き返る事を未来の彼女が拒絶したから。既に出来上がっている歴史は変わらないが、これからの未来に彼女はいない。
はこれで良いんだ。と笑った。
「クリリン? どうかした?」
「なんでもない」
クリリンと視線が合ったは、ニッコリと笑った。なんでも無茶をした幼い頃と変わらない笑顔で。
その笑顔を見て、ここにちゃんとはいるんだ。とクリリンも笑う。
しばらくクリリンと話してから、は悟飯を話しているピッコロの方へと向かった。
「…またきても良い?」
悟飯がピッコロに言った言葉と同じ言葉を言うが、その意味合いは悟飯とは違う。
目的は果たしたのだ。もうこの時代に来る必要はない。
それはにもわかっているのに、口に出てしまう。この時代に来たいのではなく、ピッコロに会いたい。ただそれだけの為。なんてワガママな理由。
言ってはいけない言葉には首を振る。
「ごめん…なんでもない…」
「…往復分のチャージが出来たらまた来い」
「ピッコロ…」
溜め息と共に出てきたピッコロの言葉に、は驚きを隠せない。
「この神殿に降りるぐらいなら構わんだろ」
新しく神となったデンデの方に視線を向けると、デンデもコクンと1つ頷く。
「ありがとう」
ピッコロとデンデの顔を見たは、満面の笑みを浮かべる。
「行くぞ」
「うん! 明日はまた会える…よね?」
「ああ」
クリリンに呼ばれ返事をしてから、ピッコロの方を見ると、体を浮き上がらせた。
出発の日、カプセルコーポレーションの庭にはタイムマシンがおいてあり、トランクスとの見送りに顔見知りが集まっていた。
「お主は顔も見せんと帰る気じゃったんか」
「こうやって顔が見れたから良いって事で」
「まったくぅ…。しっかり人造人間を倒して平和な世界にするんじゃぞ」
「はい!」
責められるような口調に苦笑して言葉を返しながらも、その後の言葉には深く頷く。
ふと顔を上げると、トランクスがベジータと視線を合わせ、ベジータが片手を上げていた。
トランクスがセルに殺された時、憤怒したベジータがセルに攻撃しに行った事を聞き、本当に嬉しそうにしていたトランクス。
はキョロキョロとあたりを見わたし、少し離れた所にピッコロの姿を見つけると、駆けだす。
「本当にまたきても良い?」
「ああ。神殿であれば、そんなに歴史もかわらんだろう」
その言葉に微笑むと、は武空術で少し浮く。
空に浮いたに不思議そうな顔をしたピッコロの唇に、自分の唇を合わせた。
触れるような口付けをして、すぐに地に足をつけると、ピッコロと目が合うと、ペロッと舌を出した。
「約束のしるし」
「き…貴様…な…何を…っ!!」
悪戯っ子のような笑みを向けると、ピッコロは口元に手を当て、真っ赤な顔をして叫ぶ。
その声に不思議そうに二人をみる視線を感じるが、はニコニコで微笑んでいる。
「さ、行こうか、トランクス」
「あ…はい…」
白く長い髪をなびかせ、タイムマシンに乗り込むと、トランクスも操縦席に乗り込む。
「さん」
「ん?」
「さっきの…なんだったんですか?」
「ん~ん。なんでもなぁ~い」
見えない所で行われた行為は、誰も気付かれる事がなかった。だからこそ、はピッコロに口付け出来たのだけど。
「さん?」
「ほら、帰ってブルマを安心させてあげないと」
さほど広くないタイムマシン内で、振り返ってくるトランクスの顔を前に向けて、赤い顔をしては笑う。
「恋愛が分からなかったら、これから分かっていけば良いんだよ」
トランクスにも聞こえない声で、下にいるピッコロを見ながら呟くだった。
― 3年後 ―
シェルターで暮らしていた人々は協力し合い、復興しようと努力していた。
もう、いつくるか分からないない人造人間達に、怯える必要はない。
やっとそう思い始めた。
人造人間を倒したトランクスとは、往復分の燃料のチャージが完了したタイムマシンの前に立っていた。
もうすぐ、セルが来る。
トランクスとを殺し、過去に戻って17号と18号を吸収する為に。
「さん」
「うん」
建物の影から、窺うように見ているセルの気を感じ、トランクスとは視線を合わせ頷き合う。
「離れていて。母さん」
「うん」
「さん、母さんをよろしくお願いします」
「うん。ブルマこっちへ」
完全体でないセルならば、トランクス1人で倒せる。
トランクスがセルと戦っている間、はブルマを守る。そう2人の間で決まっていた。
セルを連れてトランクスが飛び発ったのを見て、ブルマは息を吐く。
息子が戦う事に不安を感じない親がいるだろうか。
「大丈夫だよ。ブルマ。トランクスはセルを倒すよ。そしてやっと平和が訪れるよ」
「そうね…、あんたはどうするの?」
「私?」
「うん。過去に行って報告して。ピッコロに会って…その後は?」
「ブルマ?」
「あんたには酷な事言うかも知れないけど、この世界のピッコロはもう死んだのよ。過去の世界のあんたもいないのよ?」
ブルマの言葉は、今までが無意識の内に考えないようにいた事だった。
過去の世界に留まる訳にもいかない。自分で自分の歴史を消したのだから。
それでも、ピッコロに会いたかった。
「それでも…私はピッコロに会いたい」
「こんな風に3年に一度…ううん。もしかしたら、少し早くなるかも知れないけど、それでもずっと会える訳でもないのに?」
「うん。ピッコロに会えれば…それでいい」
そう答えるの瞳を見て、ブルマは黙り込む。
本当はもう行ってはいけない。と注意するべきだろうが、ピッコロの死後のを知っているだけに、何も言えなかった。
過去のは『人間』として死ねた。ピッコロや仲間達の仇もとれた。
後は過去の自分の分まで生きなくてはいけない。
この大事な人のいない世界で。
「ごめんね。ブルマ。心配してくれているのに…」
「なぁ~に言ってんのよ。あんたがそれで良いなら、ブルマさんは何も言わないわよ!」
バシバシとの背中を叩きながら笑うブルマ。そんなブルマにも笑顔になる。
それから、何かを感じるように顔を上げ、空を見る。
「トランクスがセルを倒した」
「それじゃ、もうすぐトランクスも帰って来るわね」
消えた気を感じてが呟くと、安心したようにブルマは微笑む。
やっと訪れた平和な世界。
この世界を大切にしよう…そう思うだった。
「あ! トランクス!!」
空に浮かぶトランクスを見て、ブルマが叫び駆け寄る。
「さぁ、さん、行きましょうか?」
「うん!」
無事に人造人間やセルを倒せた事を報告する為に、そして、の逢いたい人に逢う為に。
タイムマシンに乗り込み、見上げるブルマに手を振る。
カリン塔の上にある神殿。
半球のその神殿には、神であるナメック星人のデンデ。お付きのMr.ポポ。そして、彼らを支え守る為にいるナメック星人のピッコロが住んでいる。
「ピッコロ!!」
タイムマシンから降り立ったは、気を感じて神殿から出てきたピッコロに駆けて行く。
『…生きろ…』
その言葉を胸に、は生きている。
例え、同じ時代に生きられなくても、こうして逢えた事の幸せを胸に抱いて…。
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テーマ…永遠の片想い(笑)
悲恋のようで悲恋でないんです。
舞空術で浮いて、ピッコロさんの唇奪ってみたかったの。
ピッコロさんは少しずつさんに想いを寄せていくんですよ…たぶん…。
色々設定を考えていたんですが、ややこしくなりそうだったので詰め込むのをやめました。
そしたら、やたらめったら訳の分からん話になってしまいました。すみません。
終