約束 01話
『約束だよ。オレとずっと一緒にいてよ』
『うん。約束する』
そう言うと、安心したように微笑んで眠る。つないだ手は温かく、眠りを誘う。
この温もりは永遠に続くと、そう思っていた。
だけど、それは呆気ないほどの早さで消されて行く。
『―――ッ!!』
『好きよ。例え貴方が―――だったとしても…。私は貴方を愛している…。これだけは覚えて…ッ…!?』
『約束はどうなる? オレとの約束…』
『そうね…貴方が見つけてね…ッ…わ…たし…を…』
『―――!!』
ドンッ!!
「イタッ!!」
気付けばベッドから落ちていた。
最後に呼ばれた名前らしきものは、私の名前じゃないのに、引き裂くような声で叫ばれた名前。
貴方は…誰…?
「もう、なんだって言うのよ。今日の夢は」
幼い頃から時々見る夢。いつもは楽しい夢なのに、今日は悲しい夢。
頬を伝う涙をゴシッと拭いて、ググッと伸びをする。
「今日は入学式! 頑張るぞ!!」
。18歳。今日から大学生です。
新しく買ってもらったスーツを着て、首元にはスカーフを巻く。首元には大きな傷。胸元まで続いている。
家にいる時は気にしないけど、外に出る時は隠している。ジロジロ見られるのも好きじゃないし、説明しようとしても私自身が覚えてないから、説明のしようがない。ただ、それだけの事。
幼い頃、事故に会った私は生死を彷徨っていたらしい。
目を覚ました私は、自分の名前どころか何も覚えてなかったらしい。幼いといっても、自分の名前や両親の事や色々な事は、舌足らずな言い方で色々喋っていたから、どこまで解っていたかは分からないらしいけど…。
そして、事故の後にしても、不自然な首から胸にかけての傷が出来ていた。刃物か何かで切られたような大きな傷は、消える事はなく、私の体に残っている。
失った記憶は戻ってこなかったのか分からないけど(何しろ幼すぎて私の記憶にはない)両親は生死を彷徨った娘を今まで以上に大切に育ててくれた。
「~! 早くしないと入学式に遅れちゃうわよ~」
「はぁ~い!!」
姿見でスーツをちゃんと着れているのかを確認して、下におりて行く。
大学へ入学したのも、両親の『働くのは大学を卒業してからでも良いじゃない』の一言で決まったようなものだ。
私自身、まだ働く事に不安を持っていたから、大学へ行くのに何の迷いもなかったけど、ちょっと過保護すぎよね。
なんとか大学生活も慣れ、講義にもそれなりについていけるようになった。
それでも、幼い頃から時々見ていた夢は、毎日のように見るようになった。
夢に出てくる『私』は違う名前で呼ばれているけど確かに私で、一緒にいる『彼』が大好きだった。
子どもだった彼は、だんだん成長していき、その姿にドキドキしていた。それは彼には秘密で、ずっと黙っていようと決めた事。
「またあの夢…」
つないでいた小さな手が、大人の手になってそれでもつないでる手。
あの手は誰の手だろう?
こんな思いは初めてで…。
「あなたは…誰…?」
夢の中で出てくる人に問いかける。答えなんて返ってくる訳ないのに。
そんな私の疑問は、偶然つけていたテレビによって解けた。
その日は、大学の講義はお昼からで、朝はのんびりとテレビを見ていた。
そこに映し出される超人オリンピックの調印式様子。
茶褐色の肌に黒いマスク。
ガタ!!
「? どうしたの?」
「あ…あ…」
「!?」
いた。見つけた。
私の…。
「ウォズ…」
「!?」
お母さんの声が遠くの方で聞こえて、私は意識を手放した。