奇公子奮闘記 2

 商店街で買物を済ませた俺は、よく解らんがチンピラに絡まれた。俺の周囲を5・6人、ガラ悪そうなヤツラらが囲んでいる。
「…………」
  鉄仮面に覆われた頬の辺りを掻きながら、俺は片手に下げているビニール袋を持ちなす。
 中身は何だったか……えー……確か生ものは入ってなかったな。
 あー……飲み物ばっかりだ。俺とはよく紅茶を飲むから、ミルクだ。
 生もの、ではないが早く帰りてぇなぁ。愛しいがジムで俺の帰りを泣きながら待ってるんだ。
「金貸してくれよ〜」
「…………」
「兄ちゃん、超人のチャンプだろ? 羽振りよくお願いしたいねぇ」
 
 ――コイツら、超人が人間に屈するとでも思ってやがんのか?

「貸しても構わないが……」
「おー、話しわかるじゃねーの。流石のチャンプも6人がかりは怖いか」

 ――ぬかせ。お前らなんか怖い訳ねえだろ。頭ワリぃな。

「利子は高くつくぜ!!」
 言うと同時に俺は身体を深く沈め、空いている片手を地に着いて喋ってるヤツに足払いを掛けた。
「がぁ!?」
 すぐさま体勢を戻し、うつ伏せに倒れたそいつの背を踏みつける。正義超人になったが……昔の癖は抜けきってねぇ俺。
「売られたケンカは買うぜ。かかって来な」
 当然だ。に言ったら、『アホか!』と怒られたが。アイツは基本的にケンカを売られる事が少ない。
『売られたとしても買わへんわ』
 という平和主義者な面が垣間見れて。
 スゲー意外だったのを憶えてる。そんなが俺を恋焦がれて待っている――早く帰宅せねば!
「来ないなら、こっちから行くぜ〜〜〜ッ!」
 片手にスーパーの袋を持ったまま、俺は残りのチンピラを片付けに掛った。


! 今帰ったぞ〜〜!!」
 客室の扉を勢いよく開ければ、
「んあー、お帰りぃ」
 ひょっこり目の前にあるソファーの背凭れに両肘を置いて、顔を覗かせる。
「俺が居なくて寂しかっただろう!? 泣いただろう!?」
「全・然」
 両腕を広げて飛びついて来るのを待っていた俺に、満面の笑みで否定……これも一種の愛情表現!
 は恥ずかしがり屋だからな。
「牛乳買ってきたんやろう? 冷蔵庫入れな……何で私を抱き上げる必要があるのん」
 左腕のみでを軽々持ち上げる。
 コイツ、ちょっと痩せたんじゃねぇか? そういえば食欲落ちてるとか言ってが……原因はそれか。
「俺がお前と一緒にキッチンへ行きたいから」
「…………」
 やれやれと溜息をついたの顔は、困った様に笑っていた。
 コイツはよくこういう笑い方をする、最近気が付いた俺。
「癖か?」
「何が?」
「その、微妙な笑い方」
「……? 普通に笑ってるつもりやけど……変?」
「いや、そういう訳じゃねえけど……」
 抱き上げて近くで顔が見えるせい、だな。いつもみたいに大口開けて笑ってるがやっぱり俺は好きだ。
 目と口だけで笑う――微笑むって言った方がいいのか――この笑い方も嫌いじゃないが。
「ケビン! ケビン! キッチン過ぎてる!!」
「……解ったから鉄仮面をバシバシ叩くんじゃねえ」
 ビニール袋をに渡してから床に下ろした。
 さっさと冷蔵庫へ歩き出してそれを開けたは、「ねえ、ケビーン」そのまま俺を呼ぶ。
「何だ?」
「冷蔵庫の中身がオカシイ」
「は?」
「何か……洋菓子とか和菓子とか、お菓子の割合が多い……」
「――……チェック・メイト〜〜〜!!!!」
 アイツが昨日来た時に入れて行きやがったんだ!
 何かゴソゴソしてるなぁと思ってたら……あの食いしん坊万歳が!!
 人ン家の冷蔵庫の中身を勝手に変えて行きやがって――
「あ。何か書いてある……『と一緒に仲良く食べて下さい。チェック・メイト』」
「いいヤツだ!」
「アホー。ご飯どうすんのん、これ……まあ、ケビンだからイイか……ケビン」
 冷蔵庫を閉めたがこちらに振り返った瞬間、突然低い声で呼んだ。
 一瞬びくつくも、俺は何も悪い事はしてないぞ!――という姿勢を崩さなかった。
「コート脱いで」
「…………」

 せ、積極的だ!
 まさかこんな昼間から!?
 俺は夢を見ているのだろうか!?

「早よぉ!」
「あ、ああ……」

 場所はこの際関係ないということか!
 そうなんだな!?
 !!
 
 嬉々として黒のコートを俺が脱ごうとすれば、が腕を伸ばして素早くその動きを止める。
? どうし……」
「この傷、どないしたん?」
 唸る様に彼女は俺のセリフを遮り、眉間に皺を寄せた。
「キズ? ……あ」
 左腰辺りのTシャツに横向きの亀裂。その下には同じ様な切り傷が見えている。
 
 俺、何かしてました。

 さっきのチンピラどもの一人から受けた傷だ。そんな痛みも感じなかったので忘れてた。
 あの後コートは邪魔だから脱いだ。戦い終わった後にこの傷に気がついて、コートで隠してたんだ。
「心配するな。直ぐに治る。それより――」
「アホぉ! 手当て! 消毒! もう救急箱どこぉ!? 血の臭いするなぁと思っとたら!」
 グイグイと俺は彼女に背を押され、いつもの客室まで戻された。
「お、おい・! 大げさだって」
 挙句の果て、ソファーにまで座らされてしまう始末。
 救急箱は客室の目に付く所に置いてあったので、は直ぐそれを見つけ、テーブルに置いた。
「私にとっては大袈裟ちゃうの!」
「超人の治癒力を舐めるな。こんなもん直ぐ治る」
「だとしても、消毒くらいしとかんと……はい、Tシャツ脱いで」
「脱がせてくれよ、
 言うと、救急箱から消毒液を取り出していたの動きが瞬く間フリーズする。
 あ〜……そんな姿も可愛いな。少し驚いた顔も Good だ! 実際、は何をしていても可愛い。
 小柄な――超人からすりゃー女は全部小さい――だが普段堂々として居る。
 それがあるせいか、ちょこまか動かれると可愛さが倍になる。まあ、当然これは限定だぞ!
「――そのまま消毒するから脱がんでエエわ……えい!」

 バシャァ!

「痛!? おまっ、エタノールぶっかけるな!」
「ああ、ゴメン……そんで、Tシャツ脱ぐ気になった?」
 素知らぬ顔でエタノールを救急箱に戻すと、立ち上がった。
 漸く俺との目が合う。
 綺麗な瞳だ。いつみても(口に出したら殴れること確実なので言わない)
「……だから脱がせてくれって」
「イ・ヤ! 自分で脱げるやろう」
 プイっとそっぽを向いてしまった。コイツは本当にシャイだなぁ。
「なあ〜〜〜・なあ〜〜〜・〜〜〜」
 手を掴んで言ってみる。無表情の横顔の中に隠れているテレが可愛い。
「……ケビン……」
「何だ?」
「ロビン校長、呼んでいい?」
「――脱げばいいんだろう、脱げば」
 思わず舌打ちした。
 ダディなんか呼ばれた日にゃあ、俺は行方をくらますぞ。

 今日も俺とは誰もが羨(うらや)むラブラブな日常だった。

 終?


 ケビン、誇大妄想が激しすぎます。そしてどんどん気持ち悪くなっていきます。
 気持ち悪い、というか、幼い(幼い?)アホーな子。
 そんな君が大好きだ!! 愛してるよ!!
 1よりヴァージョンアップを試みました。無理でした。
 セリフが多くなってしまったのはご愛嬌。すみません。