アデクとの出会い編01

イッシュ地方 旅立ちのシンフォニー ーアデクとの出会い編ー

序文

 旅をする理由を我々は持つ。
 傷心する理由を我々は抱く。
 治癒する理由を我々は知る。
 旅立ちの理由を我々は……。


第一話

「イッシュ地方? どこそれ? 地図に乗ってないけど」
 ポケモンパンを齧りながらは久し振りに戻って来たジョウト地方はコガネシティの実家——自室のパソコン画面に向かって喋っていた。
『それはそうだよ、姉さん。イッシュ地方はかなり遠い所にあるんだ』
「成る程。世界は広いってことか」
『そういうこと。僕も今そこに居るんだ。見た事の無いポケモンは勿論、知らない伝説もあってね。また姉さんにロードワークをお願いしようと思って』
 パソコンの画面に映るのは白衣を着た男性——と二卵性の双子で似ていない弟タカミズ。
 幼少より天才とモテハヤされて来た彼はオーキド博士も一目置く天才科学者であり、ロードワークの報酬を支払うの雇い主でもある。
 タカミズはポケモンリーグ本部から研究費や人件費として経費がしっかりと貰える程で、はその人件費を頂戴しているのだ。
『明日にはジョウトを旅立って欲しいなぁと思ってるから、飛行機のチケットは今日中に届く筈だよ』
「相変わらずの手回しで。解った。お母さんに言っておくよ」
『姉さん。今回のイッシュ地方ロードワークだけど、かなり長期間になると思う』
 いつもの調子で返事をしパンを齧ったに二卵性双児の弟は真摯な声色で付け加えた。
「……ふーん? そんなに危ないんだ?」
『うん。調べて貰う相手がギンガ団よりも相当手強い。首謀者の顔も組織名も割れているのに拠点がまるで見つからないんだ。この辺りは姉さんがイッシュ地方に来たら詳しく話すよ。取り敢えず今日はもう旅支度をして飛行機のチケットを待っててね』
 険しい表情を一変させたタカミズはニコリと笑ってから、『それじゃあ、イッシュ地方で会おうね』とテレビ電話の役目をしていたパソコンの通信を切った。
「長期間ねぇ。半年程度じゃあ片付かないってことか」
 パンを完璧に食べ終わり空になったパッケージ袋を丸めてクズ籠へは捨てると、チェストの上に並べていたモンスターボールに向かって呼びかける。
「バクフーン、デンリュウ。出て来てくれるかな?」
 音をたててモンスターボールが上下に開き、赤い閃光と共に二体のポケモンが現れた。
 どちらもオスで、と最初から長い旅をして来たパートナーである。特にバクフーンは弟から旅立つ前に貰ったヒノアラシが最終進化したのだ。
「あんまりゆっくり出来なかったけど、また一緒に旅をしてくれる? 勿論、顔なじみの四体も連れて行くよ? でもね、もしかしたら、途中で皆には手持ちから外れて貰う事になるかも知れない。それでもまた……私と旅をしてくれる?」
 未だ見ぬ地・イッシュ地方。敵となる組織が使用するポケモンも当然イッシュに棲息するポケモンだろう。
 そうなってくるとのパートナーである彼ら二体はイッシュ地方において、彼女の正体を隠すことに適さない可能性が大きい……バクフーンもデンリュウも多くはジョウト地方に棲息するポケモンだ。
「バクゥゥ!」
「デンリュゥゥ!」
 しかし立ち上がって問うたの心配を余所にパートナー達は元気に鳴いて頷いてくれた。
「有難う二人とも。……他のみんなも」
 チェストに残っている四つのモンスターボールが左右にガタガタ揺れている。彼らも例え手持ちから離れる事になったとしても、と共にイッシュ地方へ旅立ってくれるというのだ。
ー! タカミズから書留でなんか届いたわよぉ?」
 一階へ続く階段の下から母親がそう叫んでいる。
 すぐさま答えは飛行機のチケットだろうそれを受け取りに降り、母親にまた旅立つことを告げた……今度は長期だということも。