ーデンジとの出会い編ー02

第二話

 コンテスト出場にもポケモン達のレベル上げにもが飽いて来た頃――もう二週間が経過している――またナギサシティをふらりと尋ねてみた。
 二卵性双子の似ていない天才科学者で弟タカミズのシンオウ神話調べはシンオウリーグ現行チャンピオン・シロナの協力もあり順調だし、ギンガ団はサトシ達が知らぬ間に何とかしてくれたので……調査員の退屈も究極を超えていた。
(まだバッジ置いてある)
 バクフーンと揃って彼女は溜息を吐く。本当にここのジムリーダー・デンジはバトルをしないのだろうか。職務放棄も良い所だ。
さん!」
「……あ。サトシ君。久し振り」
 ピカチュウを連れた少年サトシとそのご一行様と再会した。
 彼もナギサジムに挑戦するらしいが現状を知り憤りを隠せない様だ。ジムのガラスドアを叩きまくるサトシを不法侵入者と認識したロボット達が動きだし、ちょっとした騒ぎにもなってしまった。
「取り敢えずポケモンセンターに行こうか」
「はい……腹も減ったし、倒れそう……」
 ポケモンセンターがある街中へ行くと、かなり機械化されている。床まで動く。
「あれ? ちゃんか?」
「……オーバさん」
 少年達の後方を歩いていたがその声に足を後へ引けば、赤髪のアフロ四天王が。
「戻ってきてくれたのか!?」
「え、はい、まあ……。あ、そうだ。サトシ君、ヒカリちゃん、タケシ君、こっち!」
 先へ進んでいた少年少女を呼び止め呼び寄せると、「皆、この人が四天王のオーバさん」紹介しておく事にする。
「し、四天王のオーバさん!? シンオウリーグの四天王で間違いないですよね!?」
「おう! 俺様が炎タイプの使い手・四天王オーバだ。よろしくな!」
 タケシが仰天するも四天王である男は気さくな態度を崩さなかった。
「初めまして、オーバさん! 俺はサトシって言います! こっちは相棒のピカチュウ」
「サトシ君か。君は熱く痺れる性格をしていそうだな! 君もジムに挑戦するのかい?」
「はい! ……でもジムの前にバッジが置いてあって……俺! ちゃんとバトルして、ジムリーダーに勝ってからバッジが欲しいんです! その為に此処まで来たんです!」
 すると四天王オーバはニヤッと笑う。はその笑みが少々怖かった……このアフロ何をしでかす気だ、という思いの恐怖である。
「熱いハートだな! 良いぜ、俺がナギサジムに入れてやるよ! ジムリーダーとは知り合いだからな!!」



 オーバのツテでを含めた一行はナギサジムに入り、サトシは現れたやる気の無いナギサジムのジムリーダー・デンジに訴えた。
 俺とバトルして下さい、と。
 ジムバッジは努力と全力でぶつかりあった結果、貰うのが良いんだ、と。 
 サトシ少年の懐かしく真っ直ぐな直談判にバトルを拒否しようとしていたデンジの天秤は少なからず動いたらしい。
 シンオウ地方最強のジムリーダー・デンジが、ジムバッジを賭けて挑戦者サトシと久方ぶりのジムバトルを承諾した。
「ジムリーダーの手の内を見たく無いので、外で待ってますね。行こう、バクフーン」
 三対三対のバトルが始まろうとする直前には足早にジムから一足先に出た。
「………………!?」
 町を漠然と見ていたは目を疑う。ナギサシティから突如として明かりは途絶え、機械が次々と停止して行く。非常灯の薄暗い明かりがぼんやりと頼りなく光っているだけだ。真昼だからよかったものの、真夜中だったら薄気味悪過ぎる。
「―――なんでタワーが移動してるんだよ!? バクフーン! 行くよ!」
 は見た。この町のシンボルで町中の電気供給を担うナギサシティのシンボル・ナギサタワーが道路を撃走していく様を。
 相棒と二人で真っ先に辿り着いた現場では、本当にタワーが建っていた跡地しかない。現物が見当たらないのだ……間違いなくさっき目撃したアレがナギサタワー。
「こんな事するのはロッケト団だろうね……ボールに戻ってバクフーン。フライゴン出て来て!」
 苦虫を噛み潰したは相棒をボールに戻し、ロケット団を追う為に地面・ドラゴンタイプのフライゴンをモンスターボールから出した。
「道路に大きなタイヤの跡……あっちは港側か。フライゴン悪いけど急いで!」
 黄緑色の背に飛び乗ったトレーナーの指示に従いポケモンは羽ばたき離陸すると、フライゴンは猛然とロッケト団が白昼堂々とかっ攫っただろうナギサタワーを追走する。
 港に出られてしまうとタワーごと海上を飛んで行く恐れがあった。だからは地上で決着をつけたいのだ。
『ニャー!? ニャにか追ってくるニャー!!』
『なんだぁ? ……うわ!? フライゴン!!』
『フライゴン!? 何でフライゴン!? フライゴンが勝手に追ってくる筈無いでしょうが!! カメラ映像アップしにしなさいよ!』
 マイクのスイッチだけがONになっているのかタワー内部の声が外にだだ漏れである。
『ぎゃあああ!? なんでこんな所にが居るのよ! 聞いてないわよぉ!』
「言うハズ無いじゃないですか、ムサシさん!」
『ちょっとぉ! 何で向こうからコッチに話しかけてくんのよ!』
 完璧にロケット団が走らせる台車か荷台か解らないそれにフライゴンで追いついたの台詞にムサシがヒステリックに非難した。
『ニャー? …………内外のマイクスイッチが入ったままニャ―――ッ!!』
『『ウソぉぉぉ!?』』
 ニャースの声にムサシとコジロウのセリフがハモる。
「大人しくタワーを返して下さい。毎度毎度、変なところに悪知恵ばっかり働かせて!」
『それがアタシたちの役目ですぅ! 道ですぅ! ラブリーチャーミーな敵役ですぅ!』
 どこの子供だと言わんばかりの口調でムサシが反論すると、
『もうすぐ海ニャ! 海上に逃げるニャァ!』
 意気込み十分のニャースが何かボタンを押し込む様な音が聞こえた。
 けれどが慌てなかったのは自分がきちんと陽動になっていたからである。陸から離れる前のナギサタワーにデンジ、オーバ、サトシ――ピカチュウ付き――が、しがみついたのを目にしたからだ。
 きっと彼らはロケット団からタワーを取り戻すだろう。はそう確信して追跡をフライゴンに辞めさせた。



 ナギサタワーはデンジが作ったものである。だから海上を飛ぶタワーの外部から内部へ入ることも容易く彼にかかれば雑作も無い事だ……途中でオーバがしがみついていたタワーから海へ落ちたけれど自力で、ヒカリ、タケシが待つ港へ戻って来た。
 一方のデンジとサトシはロケット団とのタワー内部で戦闘を終え、タワーを制作したデンジはコンソールに向かい海上飛ぶタワーの軌道修正を完了し、着陸座標は元の位置に指定完了した様だ。
 ナギサタワーは町の方へ軌道を修正し飛んで行く。、ヒカリ、タケシ、そしてオーバはタワーが着地するだろう場所へ――先行するフライゴンにはだけが乗っている――移動する。
「復旧するのには時間がかかりそうだ。回線やらパーツやら色々と駄目になってる」
 眉間に皺を寄せながらタワーより出て来たデンジと彼のレントラー。その後からサトシとピカチュウが現れた。
 着地をしたフライゴンの背からは降り話しを聞く事にする。
「それじゃあバトルは無理ですよね……」
「ああ、すまないなサトシ君。続きは出来そうに無い。ナギサタワーは町の電気を全て供給する要だ。今直ぐにでも復旧作業に入らなければ町が機能しないんだ」
 タワーを設計し作り上げたデンジがそう言うのだ。今は諦めるしか無いだろう。
「サトシ君。ナギサタワーの復旧が終わったら真っ先に君へ連絡する。その時にまた俺と再戦してくれないか?」
「――はい! もちろんです、デンジさん! 俺も腕を磨いておきます!」
「ありがとう、サトシ君。君とのバトルを楽しみにしておくよ」
 綺麗に話しがまとまりサトシ達はヒカリが出場するグランドフェスティバル開催地へ向けて旅立つと言う。
「グランドフェスティバルには出場しないよ。やることがあってね」
「えええ!? 何でですか!? リボン五つ持ってるのに勿体ないですよさん!」
 同じコーディネーターとして時に同じ舞台(ステージ)で競い合うこともあった少女はガックリと肩を落として言った。
さんがナオシさんに会えるのて、もうグランドフェスティバルだけじゃ……」
「……うん、まあ、そうなんだけど……」
 ポケモン吟遊詩人ナオシ。彼もまたグランドフェスティバル開催地を目指し、八個目のジムバッジを獲得しようとしている――と仲がいいのを少年少女達は知っていた。
「ナギサシティの復旧を手伝える範囲で手伝おうと思って。電気の供給が間に合わないと何かと不便だからこの街は。幸い電気タイプのポケモンを私も二体ほど持ってるしね」
 ベルトからモンスターボールを二つ外したはそれらを軽く放り投げる。
「「「デンリュウとサンダース!」」」
 少年少女達が声を合わせてポケモン達の名前を叫んだ。トレーナーであるはフライゴンを一先ずボールに戻し、デンジを軽く見上げた。
「ポケモンセンターや人間の病院は非常電力だけじゃあ不安だと思いますから、私はそっちの方面を回ります。デンジさん達・技術者の皆さんはタワーの復旧に勤しんで頂ければ問題ないと思います」
 ――静かで力強いくせ、どこか冷めたの双眸は優しくもある。
「あ、ああ……そうさせて貰う」
 素直にデンジは頷き、サトシ達と今暫くのさよならを交わした。