ーコーディネーター入門編ー01

第一話

「オール・ペア・コンテストバトルぅ!?」
 ポッチャマを肩に乗せる少女がポケモンセンターに貼られていたポスターを目にし、壮大に叫んだ。
 ここはとある町のとあるポケモンセンター内。ポケモンマスターを目指しシンオウ地方で旅を続けるサトシとピカチュウの旅仲間で先ほど叫んでいたポケモンコーディネーターの少女ヒカリは肩を落とした。
「そんなぁ……ペアなんて組む人居ないよ……」
 予選から決勝戦まで全てをペアで……二人で優勝を狙うという特殊なルールを用いたコンテストバトルとは、また珍しい。
「何々……『出場ペアは下に書く条件の内、二つ以上当てはまらなければならない。一つ、ペアのどちらかはリボン四つ以下であること。二つ、ペアのどちらかはリボンを所持していないコーディネーター、もしくはコーディネーターでは無い者。三つ、リボン所持同士のコーディネーターペアである場合は二人のリボン合計数が六個以下であること。四つ、この町の出身者ではない者』……変わった出場条件だなぁ」
 ポスターに書かれている文言を読んだのは糸目のタケシだ。顎に手を当て考え込んでいたが、「驚いた?」女声が彼らにかけられた。
「ああ麗しのジョーイさん! はい! 自分そりゃもう驚いてます! ジョーイさんの美しさ程ではありませんが!!」
「は、はぁ……」
「ジョーイさん。何か意味があるんですか? この条件って」
 片膝を折ってジョーイにプロポーズをしそうなタケシを完全にスルーしたサトシが変わりに尋ねる。
「ええ。この小さな町は年々、貴方達のような若い人たちが居なくなっているの。だから地域活性化と称して他には無い変わったコンテストバトルを三ヶ月に一回のペースで開催しているのよ」
 旅する少年たちはその三ヶ月に一回という時期に符合したらしい。ジョーイは助手のラッキーと言うポケモンを連れながら町の歴史を話し出した。
「町に活気があった頃この町は初心者コーディネーター向きのコンテストをずっと開催していて、出場条件はその名残り。今は色んなところでコンテストがあるけれど、昔はそう多くは無かったからこの町に人が集まったらしいわ」
 今じゃあこれくらいの特色を出さないと一時(いっとき)でも人が来ないのよ。
 寂しい笑顔を作られてしまった少年少女たちは、二日後に控えたペア・コンテストバトルに出場するかしないかを話し合った。



「あの町で休もうか」
 手持ちのフライゴン♀に乗るは上空から眼下をみやり指差した。空を飛んでいるフライゴンも納得したのか下降を始める。の前には珍しくサンダースが乗っていた。
 最後のジムバッジがあるナギサシティはジムリーダーが職務放棄中……らしい。まだナギサシティに行って確認していないが、何日か前に立ち寄ったポケモンセンターのジョーイも言っているから本当なのだろう。いつになったら再開するのか、そんな期待を込めつつ修行をしていたと六匹のポケモン達だが、中々に飽いてきた。
 修行場所を変えようと思いたちフライゴンに跨りとサンダースは遊覧飛行を楽しむこと二十五分ーー山の中にある町を発見し休息を取る事にしたのだ。
「こんにちは。ようこそポケモンセンターへ!」
 相も変わらずジョーイの血族とラッキーが出迎えてくれた。
 小さな町なので訪問者はポケモンセンターを直ぐに見つけることが出来きるし、センターの中にいる者からも訪問者を認めることが出来るのだ。は降り立った時フライゴンをボールに戻し、共に遊覧飛行を楽しんでいたサンダースを足許に連れ歩いていた。
「ど、どうも。この子達の回復を………って、あれ?」
 足許に居たサンダースにが片腕を伸ばし肩へ上がらせれば、ポケモンは首を包むようにとぐろを巻く。それを半ば黙認しつつは残り五匹を納めたボールをジョーイと助手ラッキーに渡そうとして……視線を一点に止めた。
 ーーサトシたちを見つけたのだ。町は狭くともポケモンセンターの中は割り方広いので、待合にいる彼らはに気付いていない。難しい顔をしているところを見るに何かを考えているのだろう。
「あら、彼らとお知り合いですか?」
「あ、まあ……。このサンダースと、このボールに居る子達を診てもらえますか?」
「はい。任せてください。お預かりします」
 マフラーの様に首を覆うサンダースの頭をが撫でると嬉しそうな顔をしてから床に飛び降り、ラッキーが持っていたトレイに彼女はモンスターボールを六個置いた。
 それは連れ歩いているサンダースの分だ。
「ラッキー、先にサンダースたちを診察室へ」
 と、ジョーイは指示を出し、何故かの前に残った。
「不躾ですが、貴女は旅のポケモントレーナーですか? コーディネーターではなくて?」
「……? はい、トレーナーです」
 奇妙な質問だなぁと思いつつ一拍ほど空けてからが是と頷けば、ジョーイの目が輝く。
「オール・ペア・コンテストバトルに出場しませんか!? いえ、是非出場してください!!」
 両手を握られ顔の距離を詰められた時、「さん!?」自分を呼ぶ少年少女たちの声を聞いた。



 ああ、この偶然を本当に感謝したい。
 伝説のポケモン・ミュウを象った黄金色の竪琴の弦を軽く爪弾いた男はポケモン吟遊詩人ナオシだ。
 抑え切れぬ自分の感情を乗せて今直ぐにでも爪弾きたいとナオシが思ったのは、生まれて初めてかも知れない。
「またお会い出来て光栄です、とても」
 こんな小さな町で特殊なコンテストがあると人伝に聞き、参加するつもりは無かったナオシは興味があって足を運んだけ。
 しかしそれは正解だったらしい。
さん」
 眼前の旅するポケモントレーナー、とこの様な場所で再会することが出来たのだから。
「ナオシさん。こちらこそ、また会えて嬉しいです」
 ポケモンセンター前に何故か立っていたは会釈を返してくれた。その後に彼女からサトシ少年達も居る事を聞き、偶然が此処まで重なると奇跡だ、そうナオシは感じてしまう。
「ナオシさんは、この町のオール・ペア・コンテストに参加するんですか?」
「いいえ。今回は観戦側に回ろうと思いますが……どうなさったのですか、さん。浮かない顔をなさっていますが」
 少し困った様な表情をしているにナオシは前髪で隠れて居ない目を見開き尋ねると、意外な言葉を返されてしまった。
「実はその……私、このコンテストに成り行きで参加する事になってしまって……。相手を探しているんです」
 エントリーはペアが決まっていない一人からでも可能で、当日までにペアが見つかれば良し。というルールがあるらしい。見つからない場合はーー
「見つからない場合は、一人参加者内でペアが決まらなかった者同士をランダムに選んでペアにする、というルールが適応されるみたいで」
 ーー微かに開いたままの口がナオシは塞がらない上に、言葉も発する事が出来ない。
「それも何だかなぁと思って。サトシ君達も居たからナオシさんもココに来そうな予感がして実は外で待ってたんです」
 若干恥ずかしいのかの頬は薄らと紅い。けれど直ぐ残念そうな微笑を作ってナオシに言い続ける。
「もしもナオシさんが参加される予定で、ご迷惑でなければ……と思ったんですが。すみません。変なことを聞いてしまった上に、足止めしてしまいました」
 謝罪と共に頭を下げた彼女は踵を返してポケモンセンターの中へ戻ろうとしたので、
「……ナオシさん?」
 咄嗟にーーほぼ無意識にナオシは踵を返しかけていたの片手を掴んで、引き止めていた。
「前言を撤回させて下さい。私もオール・ペア・コンテストバトルに参加します。さんとペアを組んで」